ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

きょうだいざるのおいかけっこ

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さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりをぐるぐるまわって、おいかけっこをしています。

おいかけているのがおにいさんざる、にげているのがおとうとざるです。

 

おにいさんざるの、おいかけるはやさと、おとうとざるの、にげるはやさは、まったくおなじはやさです。

だから、おにいさんざるは、いつまでたっても、おとうとざるに、おいつきません。

 

おにいさんざるから見ると、おとうとざるは、いつまでたっても、木のむこうがわへと、にげていきます。

おとうとざるから見ると、おにいさんざるは、いつまでたっても、木のむこうがわから、おいかけてきます。

 

あるとき、おにいさんざるは思いました。

「こうやっておいかけるのも、そろそろあきてきたな。」

そこで、おにいさんざるは、いいことを思いつきました。

「そうだ。おとうとは、木のむこうがわへと、にげていく。でも、見かたをかえれば、木のむこうがわから、こちらをおいかけてくるようにも、見える。いまからこっそり、おとうとがおいかけてきていることにして、にげる気分をあじわうことにしよう。」

こうして、おにいさんざるは、おとうとざるから、にげはじめました。

もちろん、おとうとざるは、そんなことに気づくはずもありません。

さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりを、ぐるぐるまわっています。

 

ちょうどおなじころ、おとうとざるは思いました。

「こうやってにげるのも、そろそろあきてきたな。」

そこで、おとうとざるは、いいことを思いつきました。

「そうだ。おにいさんは、木のむこうがわから、おいかけてくる。でも、見かたをかえれば、木のむこうがわへと、にげていくようにも、見える。いまからこっそり、おにいさんがにげていることにして、おいかける気分をあじわうことにしよう。」

こうして、おとうとざるは、おにいさんざるを、おいかけはじめました。

もちろん、おにいさんざるは、そんなことに気づくはずもありません。

 

さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりをぐるぐるまわって、おいかけっこをしています。

 

光と闇の対話

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光の精と、闇の精が、めずらしく話をしています。

 

闇の精は、光の精にいいました。

「光がいくらあっても、ひとたび光がなくなれば、そこはいつでも闇になる。」

「それはたしかに、そうだ。」

そう光の精はこたえました。

 

闇の精は、こうつづけました。

「光がなくなれば、そこはいつでも闇になる。光のうしろには、いつも闇がひかえているからだ。」

「光のうしろにはいつも闇があると、いいたいのか。」

「そうだ。」

 

光の精は、闇の精にいいました。

「光とはそもそも何か、知っているか。」

「ぜひ、おしえてもらいたい。」

そう闇の精はこたえました。

 

光の精は、こうつづけました。

「光とは、闇のなかに何があったのかを、あきらかにするものだ。」

「ほう。」

「たとえば、夜ふけの闇のなかには、何があるのか、わからない。しかし、光がてらせば、夜ふけの闇はなくなり、木々や道があらわれる。そして、夜ふけの闇のなかには、木々や道があったということが、あきらかになる。」

「それはたしかに、そうだ。」

「さらにいえば、こうだ。闇のなかには、何があるのか、わからない。しかし、光がてらせば、闇はなくなり、光があらわれる。そして、闇のなかには光があったということが、あきらかになる。」

「夜ふけの闇のなかには、ほんとうは木々や道がある。そして、闇そのもののなかには、ほんとうは光そのものがあると、いいたいのか。」

「そうだ。」

 

闇の精は、いいました。

「光のうしろには、闇がある。」

光の精は、いいました。

「闇のなかには、光がある。」

 

となり町のピエロ

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ビクトルが、ひとりでとなり町へ出かけたときのことです。

夕方がくるまえ、ビクトルは広場をよこぎって歩くところでした。

広場はとてもしずかで、人はほとんどいませんでした。

 

荷ぐるまでくだものを売る人。

ビクトルとは反対のほうから広場をよこぎる人。

それから、広場にめんした教会のまえに、ひとりのピエロがたっていました。

 

ビクトルは、ピエロのまえをとおりがかりました。

ピエロはたったまま、ぴくりともうごきません。

それどころか、ピエロはとおくを見たまま、ビクトルのほうをちらりとも見ません。

 

ビクトルは、ピエロのまえでたちどまりました。

それでもピエロは、とおくを見たまま、ぴくりともうごきません。

ピエロは、りょうてで大きな花びんでももつようにして、さかさまにしたシルクハットを、りょうてでもっています。

ビクトルは、おそるおそる、シルクハットのなかをのぞきこんでみました。

するとそこには、コインが何枚かはいっていました。

 

たぶん、コインをいれたら、ピエロはうごいてくれるんだろう。

ビクトルはそう思い、ポケットに手をいれました。

ところが、ポケットには、紙のおかねしかはいっていません。

 

そのままたちさるのがいやだったビクトルは、足もとにあった小石をひろって、ピエロのシルクハットのなかに入れました。

小石がコインにぶつかって、音をたてました。

 

するとピエロは、まるで自動人形のようにゆっくりとうごきはじめ、おじぎをしはじめました。

ピエロのあたまが、ゆっくりとシルクハットにちかづいたとき、ピエロは、ビクトルがいれたのがコインではなく、小石だったことに気づいてしまったようです。

ピエロのうごきは、おじぎのとちゅうで、とまってしまいました。

ピエロは、ぴくりともうごきません。

 

ビクトルは、どうしていいのかわからなくなり、はやあしで広場をさりました。

 

「ぼくのあたまのなかでは、いまでもあのピエロさんは、おじぎのとちゅうでとまったままなんだ。」

そう友だちのルイスにはなすと、ルイスはこういいました。

「よし、それじゃあ、いまからぼくといっしょに、となり町へいこう。」

「まさか、あのピエロさんのところへ?」

 「もちろんさ。」

ビクトルは気がすすみませんでしたが、ルイスのいうことは、なぜだかいつもきいてしまうのです。

 

ルイスとビクトルの二人は、野道をあるき、オリーブ畑をこえ、となり町までやってきました。

町にはいれば、広場へはすぐについてしまいます。

ビクトルの心臓は、はげしくうっていました。

 

ルイスは、町のせまいろじを、先へ先へとすすんでいきます。

ビクトルは、ルイスのうしろをついていきました。

するとやがて、たてもののかげから、広場のけしきがひろがりました。

 

広場はしずかで、人はほとんどいませんでしたが、教会のまえには、シルクハットをもったピエロがいました。

ビクトルはおどろいて、おもわずたちどまりました。

「どうしたんだい?」

とルイスはききました。

「ピエロさん、あのときのおじぎのとちゅうで、とまったままだ。」

「まさか!」

ルイスがよくみると、たしかにピエロは、おじぎのとちゅうのかっこうで、ぴくりともうごかずにたっています。

 

ルイスとビクトルは、ピエロのそばまであるいていきました。

シルクハットをもったピエロは、ひざをまげて、あたまをさげたまま、ぴくりともうごきません。

 

ルイスは、ビクトルのほうをむいていいました。

「コインはもってないのかい?」

ビクトルはポケットに手を入れると、コインを一枚とりだしました。

ルイスはそれをみて、うなずきました。

ビクトルは、そのコインをそっと、ピエロのシルクハットにいれました。

 

するとピエロが自動人形のようにうごきだしたので、ルイスとビクトルはおもわずあとずさりをしました。

ピエロは、ゆっくりとあたまをあげ、おじぎをしおわりました。

それからピエロは、かたほうの手でシルクハットをもち、もうかたほうの手で、シルクハットのなかに何かをふりかけるようなしぐさをしました。


ピエロは、シルクハットをかたむけて、ルイスとビクトルに、シルクハットのなかをみせました。

なんと、ビクトルがいれた小石は、きらきらとひかる宝石にかわっていたのです。

 

こんな手紙が届いたなら

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私の記憶が正しいなら、最後にお会いしたのは、カフェ・エルゴでお話したときでしょうか。

あれからずいぶん経ったように思いますが、もしそうなら、お久しぶりですね。

お元気でいらっしゃるなら、何よりのことです。

 

さて、あなたがこの手紙を読んでいるなら、そのころ私は、パーティの準備でいそがしくしていることでしょう。

街の屋内市場へ出かけたなら、そして色のいい根野菜があったなら、まとめて買っておきたいですし、もし買えたなら、レシピの吟味もしなくてはなりません。

チーズとワイン、それからソーセージも、いいものを見つけたなら、買っておこうと思っているところです。

 

そのようなわけで、今度のフェスティバルの日、夜の八時になったなら、私の家でパーティを開きます。

もしご都合が合うなら、ぜひともお立ち寄りください。いらしていただけるなら、こんな嬉しいことはありません。

 

ただそれもこれも、こんな手紙がもし本当にあるなら、ですが。

 

それでは、さようなら。

 

空をとびたいケヤキの木 《後》

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《つづき》

ケヤキの木は何かを見つけたようです。

 

「どうしたんだい?」

友だちのムクドリは、はねをはばたかせながら聞きました。

すると、ケヤキの木はこたえました。

「さっきは、きみたちのたいぐんを見て、雨雲かと思ったんだ。」

「へえ、ぼくたち、そんなふうに見えるんだ。」

「うん。けれども、これは本物の雨雲だよね?」

「雨雲だって?どこだい?」

といいながら、ムクドリは雨雲をさがしました。

すると、おどろいたことに、小さなはい色の雲が、ケヤキの木の真上からおりてきて、ケヤキの木とムクドリたちをつつみこみました。それから雲は、下のほうのじめんに、すいこまれてなくなりました。

ケヤキの木とムクドリたちは、たくさんの水てきにつつまれていました。

「まるで3日ぶんの朝つゆが、いっぺんにおりたみたいだ。」

ケヤキの木はうれしそうにいいました。

 ムクドリたちは、「いまのはなんだったんだろう」と口々にいって、おどろいています。

すると、ひろい草原のあちらこちらに、はい色の雲が1つ、2つ、白い雲が1つ、2つと、おりてきます。そして、みるみるうちに、草原は見わたすかぎり、いろんな大きさの雲で、いっぱいになりました。

こんなけしきを見たのは、ずっとこの草原にいるケヤキの木も、はじめてのことです。

 

雲はどんどんふえていき、やがてあたりは、霧につつまれたように、まっ白になりました。

「そうか、わかったぞ!」

友だちのムクドリが、大きな声でいいました。

「雲が下におりてきたんじゃなくて、ぼくたちが上にあがってるんだよ。ぼくたちはいま、空にいるんだ。ここは大きな雲のなかなんだよ。」

「これは霧じゃなくて、雲なの?」

「そう、そのとおり。みんな!この調子ではばたこう!」

 

ムクドリたちは、休みなくはばたきつづけました。

するとやがて、霧がはれて、いや、雲がはれて、ふかい青色の空が、ひろがりました。

ケヤキの木とムクドリたちも、ふかい青色のなかにいました。

ひろい草原も、はるかとおくの森までが、青色のなかにありました。

「よし、やっぱりそうだ。雲の上までやってきたよ」

と友だちのムクドリはいいました。

 

「うっとりするくらいきれいなところだね」

ケヤキの木はいいました。

「よろこんでもらえてよかったよ」

と友だちのムクドリはいいました。

「もっと上に行くと、どういうところなの?」

「ここよりも上には、ぼくたちもいったことがないなあ。」

「じゃあ、いってみない?」

「うーん、そうだね。うまくここまでこられたから、もうすこし上にいってみようか。」

 

ムクドリたちは、青い空のなかを、さらに上へ上へと、はばたきつづけました。

ふかい青色は、もっともっとふかい色になっていきます。

そのうちに、ふかい青色はだんだんと暗くなり、たくさんの星がまたたきはじめました。

 

「あんまり楽しいから、あっというまに夜になってしまった」

ケヤキの木はいいました。

「ほんと、あっというまだったね。お日さまだって、まだしずんでないや。」

友だちのムクドリがいうとおり、お日さまは星たちにまじって、まだぎらぎらと輝いていました。

「でも、もう夜だから、 ぼくたちは帰らないといけない。」

と友だちのムクドリはいいました。

 

ムクドリたちとケヤキの木は、下におりはじめました。

雲のなかを下へとおりぬけて、もとの場所にもどってくるころには、空はすっかり明るくなっていました。

ケヤキの木はこういいました。

「あっというまに夜が明けてしまったね。みなさん、長い時間ぼくをつれてとんでくれて、どうもありがとう。とてもつかれたでしょう。」

すると、友だちのムクドリはこういいました。

「それが、ふしぎなことに、ほとんどつかれていないんだ。夜じゅうとんだはずなのに、まったく眠くもないんだよ。」

ほかのムクドリたちも、みんなうなずいていました。

 

「じゃあ、こんどこうして旅をするときは、とおくのほうへ行ってみるかい?」

友だちのムクドリは、元気な調子でいいました。

「とおくのほうって、ずっと向こうにある森よりも、もっと向こうまで?」

「そう、もっともっと向こうまで。」

「そこはどういうところなの?」

「ぼくだって、行ったことがないところだよ。」

 

 

《おしまい》

 

空をとびたいケヤキの木 《中》

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《つづき》

ケヤキの木にとって、朝がこんなにまちどおしいのは、はじめてのことでした。

のぼってくる太陽が見えたとき、ひゅうっとすずしい風がふきぬけて、葉っぱをさらさらとならしました。

まだ、ムクドリはやってきません。

 

「なかまたちをつれてきてくれるって言ってたけど、十羽くらいかな、それとも二十羽くらいかな。」

 

空がいよいよ明るくなってきたころ、ケヤキの木はとおくに何かを見つけました。

 「あれ、向こうの空にうかんでいるのは、雨雲かな。いや、雨雲じゃないな。おや、こっちに向かってくるぞ。」

 

雨雲のようなものが近づいてくると、じつはそれは雨雲ではなく、ムクドリのたいぐんでした。

「わわわ!これは十羽や二十羽どころじゃないぞ。」

すると、友だちのムクドリが一番のりで枝にとまり、言いました。

「ははは、おどろいたかい?みんなきたいって言うから、つれてきたよ。」

「すごいね。どうもありがとう!」

「みんな枝にとまって大丈夫かい?」

「もちろんだよ。枝がたりるかなあ。」

 

ムクドリたちは、大きなケヤキの木の何本もの枝に、ならんでとまりました。

もちろん、はばたくことができるだけのかんかくをあけて、ならびました。

 

「よし、みんなとまれたみたいだ」

と、ムクドリはまわりを見まわしていいました。

「よかったよかった。」

ケヤキの木はほっとしてうれしくなり、言いました。

「それじゃあ、おまちかね。さっそくはじめるとしよう。みんな!枝につかまったまま、思いっきりはばたいてくれ!」

そうムクドリが大きなこえで言うと、ムクドリのたいぐんは、いっせいにはばたきはじめました。

むすうのはねの音がまざりあい、あたりには風がまきおこりました。

 

友だちのムクドリは、ぜんりょくではねを動かしながら、ケヤキの木に聞きました。

「どうだい?宙にういてこないかい?」

「すごい風だけど、まだ宙にはうかないなあ。」

するとムクドリは、また大きなこえで、なかまたちによびかけました。

「みんな!もっとがんばろう!」

 

そのまましばらくたったあと、ムクドリがはばたきながら聞きました。

「どうだい?まだういてこないかい?」

「うーん、まだういてこないなあ。ぼくが重たすぎるのかなあ。」

「あきらめるにはまだ早いよ。みんな!どんどんはばたこう!」

 

 ケヤキの木は、じっとしているしかありませんが、ただただとびたい一心でした。

まるで、じぶんがはばたいているような気分でした。それは、はじめて味わう気分でした。

「ぼくはもうじゅうぶん満足だよ。」

そうケヤキの木はムクドリに言いました。

「なにを言ってるのさ。ぼくたちは、そうかんたんにはつかれないんだよ。」

「でも…」

そう言いかけたとき、ケヤキの木はなにかを見つけました。

 

「ん?これはいったいなんだろう?」

 

 

《つづく》

空をとびたいケヤキの木 《前》

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ひろいひろい草原に、おおきなケヤキの木がありました。

ケヤキの木には、ムクドリの友だちがいました。

ムクドリはいつも、ケヤキの木の枝にとまりにやってきます。 

 

ある日、ケヤキの木はムクドリに言いました。

「ねえ、いつもふしぎに思うんだけどさ。どうしてきみは空をとぶのに、ぼくは空をとばないんだろう。」

「さあ、たしかに、ぼくのように空をとぶ生き物と、きみのように空をとばない生き物がいるね。」

そうムクドリはこたえました。

 

すると、ケヤキの木は、いつもよりねっしんなようすで、こう言いました。

「そう、そのことをずっとふしぎに思ってたんだ。そしたらさ、なんだか、空をとぶほうがいいにきまってるような気がしてきたんだよ。つまり、空をとぶのがうらやましくなってしまったってわけさ。」

「そんなにうらやましいことかなあ。」

「うらやましいよ。もしぼくがとべたら、とおくのほうのもっととおくまで行って、それから、上のほうのもっと上まで行って、それから、あとはどこへ行けるだろう。」

「うーん、とおくのほうと、上のほう、まあそんなところじゃないかな。」

「そんなふうにかんたんそうに言うけど、ぼくからすれば、すごいことなんだよ。」

ケヤキの木は、ますますねっしんになって言いました。

 

ムクドリは、しばらく目をとじて考えていましたが、まるい目をあけると、こう言いました。

「そんなにとびたいなら、ためしてみるかい?だめでもともとだと思ってさ。」

「ためしてみるって、そんなこと、できないにきまってるじゃないか。それとも、ぼくをからかってるのかい?」

「いやいや、からかってなんかいないよ。ぼくにちょっと考えがあるんだ。」

 「へえ、どんな考えだい?」

ケヤキの木は、わくわくしたようすでききました。

 

そのわくわくする気持ちがムクドリにもうつったようで、ムクドリはうれしそうに話をはじめました。

「ぼくがこうしてきみの枝につかまったまま、とぼうとしたとするよね。ほら!」

ムクドリは、枝にしっかりつかまったまま、けんめいにはばたきました。

ケヤキの木はおどろいて言いました。

「ど、どうしたんだい?」

ムクドリは、はばたくのをやめて、言いました。

「はあはあ、びくともしないだろう?」

「うん、なんにもおこらない。」

「でも、話はここからさ。ぼくはいつも、きみのところに一人でくるけど、じつはなかまがたくさんいるんだ。」

「へえ。」

「そのなかまたちをつれてきて、みんなできみの枝につかまったまま、いっせいにはばたく。」

「ふむふむ…そうか!そうすれば、ぼくもきみたちといっしょに、空を旅することができるんだね。」

「わからない。わからないけど、ためしてみてもいいと思うんだ。」

「そうだね!もう、いますぐにでもやってみたいよ。」

「今日はもう夕方だから、ぼくはそろそろ帰らなくちゃいけない。今夜、なかまたちに話をするよ。明日の朝、やってみよう。」

「どうもありがとう!明日がまちきれないよ。」

 

空をとびたいケヤキの木のゆめは、かなうでしょうか。

 

 

《つづく》