ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

宇宙蓄音機

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「蓄音機」というものを

しっていますか

 

音をきろくした

えんばんをのせると

ラッパのかたちをしたところから

音がでるキカイです

 

「宇宙蓄音機」を

しっていますか

 

すべての星が

死をむかえると

宇宙はえいえんの闇に

つつまれます

 

そのとき

いきものたちが歌った

すべての歌が

宇宙蓄音機から

ながれはじめるのです

 

あるバーへのご招待

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そのバーには、

とても長い木のカウンターがある。
 

熟成の進んだものが飲みたければ、

カウンターの奥へ行くとよい。

長い時間をかけて、

木の香りのよくしみこんだ飲み物が、

カウンターの奥では楽しめる。

 

熟成のあまり進んでいないものが飲みたければ、

カウンターの手前のほうがよい。

できたての液体のフレッシュな味わいが、

カウンターの手前のほうでは楽しめる。

 

そして、カウンターの一番手前には、

青々としげった葉がある。

この葉が昼のあいだに太陽を受けて、

甘い液体をつくりだす。

 

たっぷりとつくられた甘い液体は、

木のなかを通って運ばれていく。

 

この液体の味と香りを求めて、

今夜もこのバーに、

いろんな客が集まってくる。

 

新年のごあいさつ

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あけましておめでとうございます!

 

昨年の夏ごろから、

中編の哲学ファンタジーのようなものを

書きはじめました。

それでなかなかブログを更新できませんでしたが、

今年の春には書き終わると思います。

いろいろとお楽しみに!

 

今年もよろしくお願いします。

 

クリスタルの言い伝え

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ある村に、キノコをうってくらしている男がいました。

男が、いつものように森でキノコをあつめていると、

落ち葉のうえに、なにか光るものを見つけました。

それはすきとおった石でした。

 

男はそれをひろって言いました。

「こんなにすきとおったガラスは見たことがない。

これはガラスではなく、クリスタルにちがいない。」

 

村には言い伝えがありました。

世の中には、ガラスよりもすきとおった

クリスタルという石があって、

願いごとをかなえてくれるという言い伝えです。

 

男はキノコのかごに、

そのすきとおった石をいれました。

 

ところが、男がひろったのは、

クリスタルではありませんでした。

それは、異国からきた商人の子どもが落としていった、

ガラスのおはじきでした。

 

男は村にかえると、

銀しょくにんの家へ行きました。

「おうい、銀しょくにんのおやかた。

森ですごいものをひろったぞ。」

「なんだい。めずらしいキノコでもみつけたのかい?」

「もっともっとすごいものだ。

ほら、これをひろったんだよ。

言い伝えにでてくるクリスタルだ。」

 

男はたくさんのお金をはらって、

たいせつな石をしまっておくための、

うつくしい銀のはこをつくってもらいました。

 

男のところに、

なやみごとのある人がたずねてくるようになりました。

「すまんが、クリスタルにお願いごとをさせてくれんかね。」

そんなとき、男はこころよく銀のはこをもってきて、

ふたをあけてやりました。

 

それから、たくさんの月日がながれました。

男はすっかり年老いて、しずかにくらしていました。

もうじき寿命がくることもわかっていましたが、

クリスタルのおかげで、村の人たちをよろこばせてきたと、

まんぞくしていました。

 

そんなとき、とおくの村からひとりの学者がたずねてきました。

「クリスタルがあるというのは、この家かね。」

「はい、そうですよ。」

「わたしに、クリスタルを見せてもらえないだろうか。」

 

男は銀のはこをもってきて、ふたをあけました。

学者は、すきとおった石を指でとりだし、

かた目をつぶり、ひらいたほうの目にちかづけて、

じっと石を見ていました。

 

「ざんねんだが、これはクリスタルではない。

これはガラスだよ。」

男は青ざめました。

言い伝えのクリスタルだと思っていた石は、

ただのガラスだったのです。

 

「なやみごとのある村の人たちにも、

ずっとうそをついてきたことになってしまうではないか。」

学者がいってしまったあとも、つぎの日も、

そのまたつぎの日も、男はなやみつづけました。

もういまさら、村の人たちにほんとうのことは言えません。

 

男は、永遠のねむりにつくまえの日、

はじめてじぶんの石に願いごとをしました。

「どうかこの石が、ほんもののクリスタルだったことにしてください。」

 

すると、

ガラスだったはずの石が、

クリスタルになったのです。

 

ガラスだったはずの石に願いごとをして、

どうして願いがかなえられたのでしょう?

 

それは、願いがかなえらたなら、

異国の商人の子どもが石をもっていたときからずっと、

石がクリスタルだったことになるからです。

男が願いごとをするときまでずっと、

石がクリスタルだったことになるようにして、

願いはかなえられたのです。

 

 

 

 

 

ふしぎなくつやさん《2》

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気にいったくつをもっていき、

おじいさんに声をかけると、

おじいさんは、

「どうもありがとうございます」

と、わらっていいました。

 

おじいさんは、こういいました。

「わたしは、お客さまひとりひとりの足にあわせて、

ひとつずつ、くつをつくっています」

 

「それはすばらしいですね」

 

「お客さまのくつができあがるまで、

3しゅうかんほど、おまちいただくことになります。

それでもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです」

 

「どうもありがとうございます」

 

おじいさんはそういうと、

足の大きさをはかるどうぐをもってきて、

みぎ足の大きさ、それからひだり足の大きさを、

はかってくれました。

 

おじいさんのつくえのうしろには、

たくさんの木がたが、ぶどうのようにぶらさがっています。

おじいさんは、そのなかから、2つをえらんでもってきてくれました。

 

「この2つの木がたで、くつをつくってくださるのですね?」

 

そうきくと、おじいさんはこういいました。

「いいえ、こちらの木がたは、

くつができあがるまで、お客さまがお使いください。

そのかわり、わたしはお客さまの足を、おあずかりします。

お客さまの足にぴったりのくつを、おつくりしますので」

 

こんなことがあって、しばらくのあいだ、

木がたの足で、くらすことになりました。

 

くつのできあがるのが、たのしみです。

 

  

《おしまい》

  

ふしぎなくつやさん《1》

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あるはれた日、

まちをあるいていると、見たことのない、

ちいさなおみせがありました。

 

それは、あたらしくできたばかりの、

くつやでした。

 

ぴかぴかのガラスのむこうに、 

みどり、くろ、ちゃいろ、あかの、

ぴかぴかのかわぐつ。

 

おみせのなかにはいって、

もっとくつを見たくなりました。

 

おみせのドアをあけると、

「こんにちは」

と、おじいさんが、

つくえのむこうから、むかえてくれました。

「こんにちは」

と、こちらも、ぼうしをとって、

あいさつをしました。

 

おじいさんのつくえには、

つくりかけのくつがひとつ、おいてあります。

「このみせにあるくつは、ぜんぶわたしがつくっているんですよ」

と、おじいさんはおしえてくれました。

 

おみせのたなには、いろんなかたちの、

いろとりどりのかわぐつが、

きれいにならんでいます。

まるでくつが、ゆたかに実った、

たくさんのくだもののようです。

 

それを見ているうち、

どうしても一足、

ほしくなってきました。

 

くつをひとつひとつ、手にとって、

ようく見ました。

そして、ふかいあおいろをした、

つまさきのまるいくつに、

すっかり見とれてしまいました。

 

そのくつをもって、

おじいさんのつくえのところまでいき、

「あのう、このくつを、買いたいのですが」

と、はなしかけました。

 

《つづく》