ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

1と2の対話:2は1からどうやって生まれたの?

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長い長い行列があります。

どこまでつづいているのか、わからないほど、長い行列です。

いったい、なんの行列でしょうか。

 

先頭には、1がいます。

1のうしろには、2がいます。

2のうしろには、3。

3のうしろには、4。

4のうしろには、5…

どうやらこれは、数の行列のようです。

どうりで、はてしなく長いわけです。

 

おや、1と2が、話をしています。

 

2が1に、こんなことをたずねています。

「私があなたから生まれたというのは、ほんとうですか?」

すると、1は2に、

「ほんとうですよ」

とこたえました。

 

2は1に、さらにこうたずねました。

「そうだとすると、あなたは私を、どうやって生んだのですか?」

「それをあなたにせつめいするのは、すこしむずかしいですね。」

1はそう言って、考えこんでしまいました。

 

そこで、2は1に、こうききました。

「あなたははじめ、たった1人きりでいたそうですね?」

「はい、はじめは、私のほかには、だれもいませんでした。あなたも、3も、4も、5も、だれもいませんでした。」

「そうすると、こういうことでしょうか。たった1人でいたあなたが、2つにわかれて、2人になった。そうやって、『2』という数ができて、私が生まれたのではないですか?」

「ふうむ。」

1は、まだ考えています。

 

すると、2は話をつづけました。

「それとも、こうでしょうか。たった1人でいたあなたのところへ、どこからか、もう1人のあなたがやってきた。そうすると、あわせて2人。そうやって、『2』という数ができて、私が生まれたのですか?」

1は、このようにこたえました。

「私が2つにわかれて2人になること。それから、もう1人の私がどこからかやってきて2人になること。どちらも正しいと言えます。どちらも、おなじことだったからです。」

「おなじこと!それは、どういうことですか?」

2はおどろいてききました。

 

すると1は、言いました。

 「私のうちがわから、もう1人の私があらわれたのであれば、私は2つにわかれたことになります。」

「なるほど、それはそうですね。」

「はんたいに、私のそとがわから、もう1人の私があらわれたなら、もう1人の私がどこからかやってきたことになります。」

「なるほど、それもそう言えますね。」

「ところが、はじめは、私だけしかいなかったのです。どこをみても、どこをさがしても、どこまでいっても、ただただ私。そんな私には、うちがわもそとがわも、なかったのです。」

「ふうむ、たしかに私にとっては、すこしむずかしい話ですね。」

こんどは、2が考えこんでしまいました。

 

1は、こんなふうに言いました。

「あなたは、私のそとがわに立っていますよね?」

すると2は、こたえました。

「はい、ここにこうして、あなたのそとがわに立っています。あなたのうちがわにはいません。」

「あなたが生まれて、はじめて私には、そとがわというものができたのです。あなたが生まれる前、私には、うちがわもそとがわもありませんでした。」

「そうだったのですか。」

「はい。だから、もう1人の私が、私のうちがわからあらわれたと言っても、私のそとがわからあらわれたと言っても、おなじことだったのです。」

 

さいごに、2は1に、こんなことをたずねました。

「もう1人のあなたは、いまはどこにいるのですか?」

すると1は、こうこたえました。

「もう1人の私は、あなたのうちがわにいます。私は1です。私のうちがわには、私は1人しかいないのです。」

 

どのバスにのるの?:カヌーとフェリーのおはなし5

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大きな耳のカヌーと、大きな目のフェリーが、おはなしをしています。

 

今日はふたりでお出かけのようで、バス停でバスがくるのをまっています。

 

カヌー「今日はお天気がよくなって、よかったね。」

フェリー「雨の日に出かけるのは、すこしたいへんだからね。」

カヌー「そうだね。雨の日にバスをまつのも、すこしたいへんだよね。」

 

フェリー「そういえば、もうそろそろバスがくるころじゃないかな。」

カヌー「ぼくたちは、どのバスにのるの?」

フェリー「カヌーもへんなことを聞くなあ。」

カヌー「なんで?」

フェリー「どのバスもなにも、このバス停には、町行きのバスしかこないよ。」

 

カヌー「町行きのバスといっても、1台だけじゃなくて、何台もたくさん走ってるんでしょ?」

フェリー「それはそうだけど。」

カヌー「だとすると、たくさんの町行きのバスのうちの、どのバスにのるの?」

フェリー「どのっていわれても、こまったなあ。」

カヌー「どうして?」

フェリー「どのバスもなにも、とにかく次にくるバスにのるんだよ。」

カヌー「『次にくるバス』って、どのバスのことをいってるの?」

フェリー「こまったなあ。とくにどのバスのことでもないよ。次にくるバスなら、どのバスにのってもかまわないんだよ。」

 

カヌー「『とくにどのバスのことでもない』なんて、フェリーもふしぎなことをいうなあ。」

フェリー「いったいなにがふしぎなのさ。」

カヌー「だって、ぼくたちがのるのは、たくさんのバスのうちの、たった1台のバスでしょ?なのに、『とくにどのバスのことでもない』だなんて。」 

フェリー「うーん、たった1台ではあるけど、どのバスのことでもないんだよなあ。」

カヌー「たった1台だけなのに、どのバスのことでもないの?へんだなあ。」

フェリー「たった1台だけなのに、どのバスのことでもない…。なんだかへんな気もしてきたぞ…。あ!あのバスだよ!」

カヌー「あのバスって、どのバスのこと?」

フェリー「あっちを見てごらんよ!」

カヌー「あ!あのバスにのるんだ!」

 

いまおきたことを、バスのなかから見てみましょう。

1台のバスが走っています。

1台のバスですが、どのバスでもありません。

運転手さんは1人だけですが、どの運転手さんでもありません。

 

おや、カヌーとフェリーのまつバス停が、見えてきました。

フェリーが、バスに気づいたようです。

するとそのとき、どのバスでもない1台のバスは、あのバスへとかわったのです。

そして、どの運転手さんでもない1人の運転手さんは、あのバスの運転手さんへとかわりました。


さて、バスになかにいるわたしは、いったいどこのどの人でしょう?

 

きょうだいざるのおいかけっこ

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さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりをぐるぐるまわって、おいかけっこをしています。

おいかけているのがおにいさんざる、にげているのがおとうとざるです。

 

おにいさんざるの、おいかけるはやさと、おとうとざるの、にげるはやさは、まったくおなじはやさです。

だから、おにいさんざるは、いつまでたっても、おとうとざるに、おいつきません。

 

おにいさんざるから見ると、おとうとざるは、いつまでたっても、木のむこうがわへと、にげていきます。

おとうとざるから見ると、おにいさんざるは、いつまでたっても、木のむこうがわから、おいかけてきます。

 

あるとき、おにいさんざるは思いました。

「こうやっておいかけるのも、そろそろあきてきたな。」

そこで、おにいさんざるは、いいことを思いつきました。

「そうだ。おとうとは、木のむこうがわへと、にげていく。でも、見かたをかえれば、木のむこうがわから、こちらをおいかけてくるようにも、見える。いまからこっそり、おとうとがおいかけてきていることにして、にげる気分をあじわうことにしよう。」

こうして、おにいさんざるは、おとうとざるから、にげはじめました。

もちろん、おとうとざるは、そんなことに気づくはずもありません。

さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりを、ぐるぐるまわっています。

 

ちょうどおなじころ、おとうとざるは思いました。

「こうやってにげるのも、そろそろあきてきたな。」

そこで、おとうとざるは、いいことを思いつきました。

「そうだ。おにいさんは、木のむこうがわから、おいかけてくる。でも、見かたをかえれば、木のむこうがわへと、にげていくようにも、見える。いまからこっそり、おにいさんがにげていることにして、おいかける気分をあじわうことにしよう。」

こうして、おとうとざるは、おにいさんざるを、おいかけはじめました。

もちろん、おにいさんざるは、そんなことに気づくはずもありません。

 

さるのきょうだいが、ひとつの木のまわりをぐるぐるまわって、おいかけっこをしています。

 

光と闇の対話

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光の精と、闇の精が、めずらしく話をしています。

 

闇の精は、光の精にいいました。

「光がいくらあっても、ひとたび光がなくなれば、そこはいつでも闇になる。」

「それはたしかに、そうだ。」

そう光の精はこたえました。

 

闇の精は、こうつづけました。

「光がなくなれば、そこはいつでも闇になる。光のうしろには、いつも闇がひかえているからだ。」

「光のうしろにはいつも闇があると、いいたいのか。」

「そうだ。」

 

光の精は、闇の精にいいました。

「光とはそもそも何か、知っているか。」

「ぜひ、おしえてもらいたい。」

そう闇の精はこたえました。

 

光の精は、こうつづけました。

「光とは、闇のなかに何があったのかを、あきらかにするものだ。」

「ほう。」

「たとえば、夜ふけの闇のなかには、何があるのか、わからない。しかし、光がてらせば、夜ふけの闇はなくなり、木々や道があらわれる。そして、夜ふけの闇のなかには、木々や道があったということが、あきらかになる。」

「それはたしかに、そうだ。」

「さらにいえば、こうだ。闇のなかには、何があるのか、わからない。しかし、光がてらせば、闇はなくなり、光があらわれる。そして、闇のなかには光があったということが、あきらかになる。」

「夜ふけの闇のなかには、ほんとうは木々や道がある。そして、闇そのもののなかには、ほんとうは光そのものがあると、いいたいのか。」

「そうだ。」

 

闇の精は、いいました。

「光のうしろには、闇がある。」

光の精は、いいました。

「闇のなかには、光がある。」

 

となり町のピエロ

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ビクトルが、ひとりでとなり町へ出かけたときのことです。

夕方がくるまえ、ビクトルは広場をよこぎって歩くところでした。

広場はとてもしずかで、人はほとんどいませんでした。

 

荷ぐるまでくだものを売る人。

ビクトルとは反対のほうから広場をよこぎる人。

それから、広場にめんした教会のまえに、ひとりのピエロがたっていました。

 

ビクトルは、ピエロのまえをとおりがかりました。

ピエロはたったまま、ぴくりともうごきません。

それどころか、ピエロはとおくを見たまま、ビクトルのほうをちらりとも見ません。

 

ビクトルは、ピエロのまえでたちどまりました。

それでもピエロは、とおくを見たまま、ぴくりともうごきません。

ピエロは、りょうてで大きな花びんでももつようにして、さかさまにしたシルクハットを、りょうてでもっています。

ビクトルは、おそるおそる、シルクハットのなかをのぞきこんでみました。

するとそこには、コインが何枚かはいっていました。

 

たぶん、コインをいれたら、ピエロはうごいてくれるんだろう。

ビクトルはそう思い、ポケットに手をいれました。

ところが、ポケットには、紙のおかねしかはいっていません。

 

そのままたちさるのがいやだったビクトルは、足もとにあった小石をひろって、ピエロのシルクハットのなかに入れました。

小石がコインにぶつかって、音をたてました。

 

するとピエロは、まるで自動人形のようにゆっくりとうごきはじめ、おじぎをしはじめました。

ピエロのあたまが、ゆっくりとシルクハットにちかづいたとき、ピエロは、ビクトルがいれたのがコインではなく、小石だったことに気づいてしまったようです。

ピエロのうごきは、おじぎのとちゅうで、とまってしまいました。

ピエロは、ぴくりともうごきません。

 

ビクトルは、どうしていいのかわからなくなり、はやあしで広場をさりました。

 

「ぼくのあたまのなかでは、いまでもあのピエロさんは、おじぎのとちゅうでとまったままなんだ。」

そう友だちのルイスにはなすと、ルイスはこういいました。

「よし、それじゃあ、いまからぼくといっしょに、となり町へいこう。」

「まさか、あのピエロさんのところへ?」

 「もちろんさ。」

ビクトルは気がすすみませんでしたが、ルイスのいうことは、なぜだかいつもきいてしまうのです。

 

ルイスとビクトルの二人は、野道をあるき、オリーブ畑をこえ、となり町までやってきました。

町にはいれば、広場へはすぐについてしまいます。

ビクトルの心臓は、はげしくうっていました。

 

ルイスは、町のせまいろじを、先へ先へとすすんでいきます。

ビクトルは、ルイスのうしろをついていきました。

するとやがて、たてもののかげから、広場のけしきがひろがりました。

 

広場はしずかで、人はほとんどいませんでしたが、教会のまえには、シルクハットをもったピエロがいました。

ビクトルはおどろいて、おもわずたちどまりました。

「どうしたんだい?」

とルイスはききました。

「ピエロさん、あのときのおじぎのとちゅうで、とまったままだ。」

「まさか!」

ルイスがよくみると、たしかにピエロは、おじぎのとちゅうのかっこうで、ぴくりともうごかずにたっています。

 

ルイスとビクトルは、ピエロのそばまであるいていきました。

シルクハットをもったピエロは、ひざをまげて、あたまをさげたまま、ぴくりともうごきません。

 

ルイスは、ビクトルのほうをむいていいました。

「コインはもってないのかい?」

ビクトルはポケットに手を入れると、コインを一枚とりだしました。

ルイスはそれをみて、うなずきました。

ビクトルは、そのコインをそっと、ピエロのシルクハットにいれました。

 

するとピエロが自動人形のようにうごきだしたので、ルイスとビクトルはおもわずあとずさりをしました。

ピエロは、ゆっくりとあたまをあげ、おじぎをしおわりました。

それからピエロは、かたほうの手でシルクハットをもち、もうかたほうの手で、シルクハットのなかに何かをふりかけるようなしぐさをしました。


ピエロは、シルクハットをかたむけて、ルイスとビクトルに、シルクハットのなかをみせました。

なんと、ビクトルがいれた小石は、きらきらとひかる宝石にかわっていたのです。

 

こんな手紙が届いたなら

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私の記憶が正しいなら、最後にお会いしたのは、カフェ・エルゴでお話したときでしょうか。

あれからずいぶん経ったように思いますが、もしそうなら、お久しぶりですね。

お元気でいらっしゃるなら、何よりのことです。

 

さて、あなたがこの手紙を読んでいるなら、そのころ私は、パーティの準備でいそがしくしていることでしょう。

街の屋内市場へ出かけたなら、そして色のいい根野菜があったなら、まとめて買っておきたいですし、もし買えたなら、レシピの吟味もしなくてはなりません。

チーズとワイン、それからソーセージも、いいものを見つけたなら、買っておこうと思っているところです。

 

そのようなわけで、今度のフェスティバルの日、夜の八時になったなら、私の家でパーティを開きます。

もしご都合が合うなら、ぜひともお立ち寄りください。いらしていただけるなら、こんな嬉しいことはありません。

 

ただそれもこれも、こんな手紙がもし本当にあるなら、ですが。

 

それでは、さようなら。

 

空をとびたいケヤキの木 《後》

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《つづき》

ケヤキの木は何かを見つけたようです。

 

「どうしたんだい?」

友だちのムクドリは、はねをはばたかせながら聞きました。

すると、ケヤキの木はこたえました。

「さっきは、きみたちのたいぐんを見て、雨雲かと思ったんだ。」

「へえ、ぼくたち、そんなふうに見えるんだ。」

「うん。けれども、これは本物の雨雲だよね?」

「雨雲だって?どこだい?」

といいながら、ムクドリは雨雲をさがしました。

すると、おどろいたことに、小さなはい色の雲が、ケヤキの木の真上からおりてきて、ケヤキの木とムクドリたちをつつみこみました。それから雲は、下のほうのじめんに、すいこまれてなくなりました。

ケヤキの木とムクドリたちは、たくさんの水てきにつつまれていました。

「まるで3日ぶんの朝つゆが、いっぺんにおりたみたいだ。」

ケヤキの木はうれしそうにいいました。

 ムクドリたちは、「いまのはなんだったんだろう」と口々にいって、おどろいています。

すると、ひろい草原のあちらこちらに、はい色の雲が1つ、2つ、白い雲が1つ、2つと、おりてきます。そして、みるみるうちに、草原は見わたすかぎり、いろんな大きさの雲で、いっぱいになりました。

こんなけしきを見たのは、ずっとこの草原にいるケヤキの木も、はじめてのことです。

 

雲はどんどんふえていき、やがてあたりは、霧につつまれたように、まっ白になりました。

「そうか、わかったぞ!」

友だちのムクドリが、大きな声でいいました。

「雲が下におりてきたんじゃなくて、ぼくたちが上にあがってるんだよ。ぼくたちはいま、空にいるんだ。ここは大きな雲のなかなんだよ。」

「これは霧じゃなくて、雲なの?」

「そう、そのとおり。みんな!この調子ではばたこう!」

 

ムクドリたちは、休みなくはばたきつづけました。

するとやがて、霧がはれて、いや、雲がはれて、ふかい青色の空が、ひろがりました。

ケヤキの木とムクドリたちも、ふかい青色のなかにいました。

ひろい草原も、はるかとおくの森までが、青色のなかにありました。

「よし、やっぱりそうだ。雲の上までやってきたよ」

と友だちのムクドリはいいました。

 

「うっとりするくらいきれいなところだね」

ケヤキの木はいいました。

「よろこんでもらえてよかったよ」

と友だちのムクドリはいいました。

「もっと上に行くと、どういうところなの?」

「ここよりも上には、ぼくたちもいったことがないなあ。」

「じゃあ、いってみない?」

「うーん、そうだね。うまくここまでこられたから、もうすこし上にいってみようか。」

 

ムクドリたちは、青い空のなかを、さらに上へ上へと、はばたきつづけました。

ふかい青色は、もっともっとふかい色になっていきます。

そのうちに、ふかい青色はだんだんと暗くなり、たくさんの星がまたたきはじめました。

 

「あんまり楽しいから、あっというまに夜になってしまった」

ケヤキの木はいいました。

「ほんと、あっというまだったね。お日さまだって、まだしずんでないや。」

友だちのムクドリがいうとおり、お日さまは星たちにまじって、まだぎらぎらと輝いていました。

「でも、もう夜だから、 ぼくたちは帰らないといけない。」

と友だちのムクドリはいいました。

 

ムクドリたちとケヤキの木は、下におりはじめました。

雲のなかを下へとおりぬけて、もとの場所にもどってくるころには、空はすっかり明るくなっていました。

ケヤキの木はこういいました。

「あっというまに夜が明けてしまったね。みなさん、長い時間ぼくをつれてとんでくれて、どうもありがとう。とてもつかれたでしょう。」

すると、友だちのムクドリはこういいました。

「それが、ふしぎなことに、ほとんどつかれていないんだ。夜じゅうとんだはずなのに、まったく眠くもないんだよ。」

ほかのムクドリたちも、みんなうなずいていました。

 

「じゃあ、こんどこうして旅をするときは、とおくのほうへ行ってみるかい?」

友だちのムクドリは、元気な調子でいいました。

「とおくのほうって、ずっと向こうにある森よりも、もっと向こうまで?」

「そう、もっともっと向こうまで。」

「そこはどういうところなの?」

「ぼくだって、行ったことがないところだよ。」

 

 

《おしまい》