ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

世界の色を変えるには?:カヌーとフェリーのおはなし4

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大きな耳のカヌーと、大きな目のフェリーが、おはなしをしています。

 

カヌー「きのうさ、古くなった木のイスを、きれいにふいて、青のペンキでぬったんだ。そしたら、ぴかぴかの青いイスになったよ。」

フェリー「へえ、それはいいね。」

カヌー「それで、思ったんだけどさ、茶色い木のイスも、表面が青い色でおおわれるだけで、青いイスになってしまうんだね。」

フェリー「ふむふむ、それはそうだね。」

 

カヌー「そうだとすると、世界中のものを青いペンキでぬったら、世界中のものが青くなってしまうのかな。」

フェリー「世界中のものってことは、いろんな国のたてものや、ひつじやキリンのような生き物や、金や銀やダイヤモンドなんかも、なにもかも青くぬってしまうの?」

カヌー「そうそう。」

フェリー「白い雲はペンキでぬれないから、白いまんまかな。」

カヌー「あ、そうだね。」

フェリー「それでも、ペンキでぬれるものはぜんぶ青いペンキでぬったとすると、世界中のほとんどのものが、青くなってしまいそうだね。」

カヌー「赤いものや黄色いものや、ほかの色のものも、ほとんどぜんぶ青いものになってしまいそうだね。」

フェリー「たしかにそうだね。」

 

カヌー「そうするとやっぱり、ものの色って、表面の色を変えただけで、すっかり変わってしまうんだね。」

フェリー「ふむ、こういう場合はどうかな。森に行って、赤いくだものを取ってきて、それを青いペンキでぬったとするよね。」

カヌー「そうすると、赤いくだものが、青いくだものになる。」

フェリー「そう、そうなんだけどさ、『でも、このくだものは本当は赤い』とも、言えないかな。」

カヌー「うーん、どうだろう。『このくだものは以前は赤かった』とは言えるかもしれないけど、表面をぜんぶ青くぬってしまったあとには、『このくだものは本当は赤い』とは、言えないんじゃないかなあ。本当に青いくだものになってしまったんだから。」

 

フェリー「ふむふむ、でもさ、赤いくだものにぬった青いペンキが、はがれてきたとするよね。そんなときには、『このくだものは本当は赤い』と言いそうなものじゃない?」

カヌー「そっかあ、そう言いそうな気もするな。じゃあ、青いペンキがはがれたあとに、今度はくだものの皮がはがれてきて、赤い皮の内側に、黄色いなかみがあるってことがわかったとしたら、どうなるだろう。『このくだものは本当は黄色い』ってことになるのかな。」

フェリー「それはどうかなあ。赤いりんごの皮の下は白いけど、『りんごは本当は白い』とは、言わないよね。」

カヌー「それもそうだなあ。」

 

フェリー「たぶん、こういうことじゃないかな。ペンキはくだものの一部じゃないから、赤いくだものに、青いペンキをぬったとしても、ぬったペンキを無視して、『このくだものは本当は赤い』と言える。ペンキの内側にあるくだものは、あくまで赤いままだからね。でも、皮はくだものの一部だから、赤い皮を無視して、『このくだものは本当は黄色い』と言うわけにはいかない。言うとしたら、『このくだもののなかみは本当は黄色い』とかかな。」

カヌー「あたまいいねえ、フェリー。そっか。イスにペンキをぬると、ぬったペンキはイスの一部になってしまうんだね。だから、茶色いイスは、『本当に』青いイスに変わってしまうんだね。」

フェリー「そうだね。イスは、ペンキもひっくるめてイスだからね。それにくらべて、赤いくだものの場合は、青いペンキをぬっても、青いペンキはくだものの一部じゃない。だから、赤いくだものは『本当は』赤いまま。」

 

カヌー「そうだとすると、世界中のものを青いペンキでぬったとしても、ペンキがものの一部になってしまわないようなものについては、『本当に』青くなったとは言えない。そう考えることができるんだね。」

フェリー「『ものごとの表面だけを見ていては何もわからない』とはよく言うけれど、『表面がものの一部なのかどうか、よく考えてみなさい』ということかな。どうやら今日は、めでたく結論みたいなものが出たね。」

カヌー「うーん…」

フェリー「ちょっと、カヌー、なんなのさ。」

カヌー「きのうぬった青いペンキ、本当にイスの一部になったのかなあ。」

フェリー「え?」

カヌー「なんとなくさ、青いペンキで茶色いイスを包みこんだだけで、ペンキの内側にあるイスは、茶色いままのような気がしてきて…」

フェリー「ああ、そんなことを言ったら…」

カヌー「そうだとしたら、世界中のものを青いペンキでぬっても、世界を青のペンキで包みこんだだけで、何の色も変わってないことになるね…」