「それでは、私から被告人に質問します。」
検察官は、こわい顔をしてそう言いました。
検察官の視線のさきにある、被告人の席には、うさぎのぬいぐるみが座っています。
「あなたは、子どもたちにおかしを高く売りつけるために、お店のまえに立っていたのですね?」
検察官がそうきいても、ぬいぐるみは、何も答えません。
「つごうの悪いことは、言えないというわけですか?」
検察官は、きびしい口調でそう言いました。
すると、弁護士はこう言いました。
「被告人には、『黙秘権』があります。つまり、質問に答えなくても、不利になることはありません。」
そして弁護士は、こうつづけました。
「たしかに、被告人であるうさぎのぬいぐるみは、おかしを高く売りつけるお店のまえにいました。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことを知らなかったのです。」
「なぜ、知らなかったと言えるのですか?」
と、検察官がきくと、
「それは、被告人がぬいぐるみだからです。ぬいぐるみは、何も知りません。」
と、弁護士はこたえました。
裁判長は、証人に発言をもとめました。
証人は言いました。
「私は、うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないで、おかしのお店に入っていくところを見ました。」
すると検察官は言いました。
「それはどう考えても、うさぎのぬいぐるみが、子どもをだましてお店へつれて入っていた証拠でしょう。」
裁判長が、うさぎのぬいぐるみに、
「それは本当ですか?」
とたずねましたが、
うさぎのぬいぐるみは、何も言いません。
人々がすこしどよめくなか、弁護士が口をひらきました。
「うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないでお店に入った。それが本当だったとしましょう。でもそれは、男の子がうさぎのぬいぐるみをかわいいと思い、仲よくなったからです。うさぎのぬいぐるみは、何も知らなかったのです。」
検察官が、みけんにしわをよせて、
「なぜ、何も知らなかったと言えるのですか?」
ときくと、弁護士は、
「ぬいぐるみは、何も知らないからです。」
と、こたえました。
裁判長は、せきばらいをして、言いました。
「被告人であるうさぎのぬいぐるみは、結果として、お店の悪い商売のためになることをしてしまった。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことは知らなかった。つまり、うさぎのぬいぐるみは、ただかわいいぬいぐるみだったということです。」
こうして、うさぎのぬいぐるみは、無罪となりました。
それを知った子どもたちは、とてもよろこんだそうです。