ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

ぬいぐるみ裁判

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「それでは、私から被告人に質問します。」

検察官は、こわい顔をしてそう言いました。

検察官の視線のさきにある、被告人の席には、うさぎのぬいぐるみが座っています。

「あなたは、子どもたちにおかしを高く売りつけるために、お店のまえに立っていたのですね?」

検察官がそうきいても、ぬいぐるみは、何も答えません。

「つごうの悪いことは、言えないというわけですか?」

検察官は、きびしい口調でそう言いました。

 

すると、弁護士はこう言いました。

「被告人には、『黙秘権』があります。つまり、質問に答えなくても、不利になることはありません。」

そして弁護士は、こうつづけました。

「たしかに、被告人であるうさぎのぬいぐるみは、おかしを高く売りつけるお店のまえにいました。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことを知らなかったのです。」

「なぜ、知らなかったと言えるのですか?」

と、検察官がきくと、

「それは、被告人がぬいぐるみだからです。ぬいぐるみは、何も知りません。」

と、弁護士はこたえました。
 

裁判長は、証人に発言をもとめました。

証人は言いました。

「私は、うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないで、おかしのお店に入っていくところを見ました。」

すると検察官は言いました。

「それはどう考えても、うさぎのぬいぐるみが、子どもをだましてお店へつれて入っていた証拠でしょう。」

 

裁判長が、うさぎのぬいぐるみに、

「それは本当ですか?」

とたずねましたが、

うさぎのぬいぐるみは、何も言いません。

 

人々がすこしどよめくなか、弁護士が口をひらきました。

「うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないでお店に入った。それが本当だったとしましょう。でもそれは、男の子がうさぎのぬいぐるみをかわいいと思い、仲よくなったからです。うさぎのぬいぐるみは、何も知らなかったのです。」

検察官が、みけんにしわをよせて、

「なぜ、何も知らなかったと言えるのですか?」

ときくと、弁護士は、

「ぬいぐるみは、何も知らないからです。」

と、こたえました。

 

裁判長は、せきばらいをして、言いました。

「被告人であるうさぎのぬいぐるみは、結果として、お店の悪い商売のためになることをしてしまった。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことは知らなかった。つまり、うさぎのぬいぐるみは、ただかわいいぬいぐるみだったということです。」

 

こうして、うさぎのぬいぐるみは、無罪となりました。

それを知った子どもたちは、とてもよろこんだそうです。

 

トランペットの沈黙と、サクソフォンの沈黙

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ある晴れた日、テラスハウスの玄関先の小さな庭で、

若いジャズバンドが演奏の練習をしていた。

サクソフォン、トランペット、ドラムス、そのほかの楽器。

 

隣のテラスハウスのドアから、

高名なサクソフォン奏者が出てきた。

頭をうなだれて、サクソフォンを持ち、

ドアの前のみじかい階段をおりると、

若いジャズバンドとは反対のほうへ曲がり、

サクソフォンを吹きはじめた。

 

 

彼はサクソフォンを吹きながら、歩く。

 

 

やがて歩道は、小さな橋へとさしかかった。

偉大なトランぺット奏者を記念してつくられた橋。

そこまで来ると、サクソフォン奏者は、ぴたりと演奏をやめた。

まるで、その橋のうえで演奏をするのは、

おそれ多いと思ったかのように。

 

しかし、演奏をやめたサクソフォン奏者は、

立ちどまって、こういったのだった。

 

「偉大なものの前には、沈黙がある。

ただそれは、創造のための沈黙だ。」

 

ありがとうの手紙

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あなたはいつも、私においしい料理を作ってくれる。

 

でも、私に食べさせてくれるだけで、自分では食べない。

 

私があなたの料理を食べようとすると、あなたはもういなくなっている。

 

一度でいいから、あなたといっしょに食べてみたいなあ。

 

いつもありがとう、過去の私。

 

3つの5人ぐみ

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まじめな5人ぐみは、

山へあそびにいきました。

まじめな5人は、

いっしょにちずをみて、

山のみちをあるき、

山のてっぺんまでたどりつきました。

5人はそこで、しきものを広げて、

おべんとうをたべました。

そして、またいっしょにちずをみながら、

山をおりて、

かえっていきました。

 

 

しっかりものの5人ぐみは、

まちへあそびにいきました。

しっかりものの5人は、

バスにのって、

地下てつにのって、

大きなはくぶつかんへとやってきました。

はくぶつかんのなかを見てまわったあとは、

また地下てつにのりました。

そして、まちでいちばんたかいタワーを見て、

おみやげを買って、

かえっていきました。

 

 

のんびりやの5人ぐみは、

海へあそびにいきました。

のんびりやの5人は、

とおくのほうに、

白いとうだいを見つけると、

そこまであるいていくことにしました。

すなはまをあるきながら、

貝がらや、

まるくなったガラスをひろっているうちに、

すっかり夕がたになりました。

5人は、とうだいへいくのをあきらめて、

かえっていきました。

 

南ではなにがみえたでしょう?

 

北の空をとぶタカは、

 

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こんなものをみました。

 

 

北の空をとぶタカのいるところから、

まっすぐ東へとんでいき、

池のほとりでやすんでいた、

二羽のカモは、

 

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こんなものをみました。

 

 

 

北の空をとぶタカが、

くちばしにくわえていたイモムシをうっかりおとしてしまうと、

空からくさむらにおちてきたイモムシは、

 

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こんなものをみました。

 

 

 

 

 

さて、南では、なにがみえたでしょう?

 

 

 

 

 

わかりましたか?

 

 

 

 

 

南では、

 

 

 

 

 

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にじがみえました。

 

ピーター・パンとウェンディーは、こんな話をしたかもしれない

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ウェンディーのお父さんとお母さんが出かけていった夜、ピーター・パンは、窓から子ども部屋へと入ってきました。

 

そして、ピーターは、ウェンディーにシンデレラの物語をおしえてもらい、うれしくなってしまいました。

それで、ウェンディーにもっとたくさんの物語をきかせてもらいたくなって、ウェンディーをつれていこうとしているのです。

 

自分についてくれば人魚にだって会えるとピーターが言うと、ウェンディーはついていきたくなってしまいました。

でも、まだ、決心がつかないでいます。

 

するとピーターは、必死になってこう言いました。

「それにじつは、きみがぼくといっしょに来てくれないと、大変なことになってしまうんだ。」

「大変なことって?」

「きみがきてくれないと、この物語はここで終わってしまうんだよ。」

「この物語がここで終わってしまう?」

「そう。きみと弟たちが、ぼくらと冒険する物語だよ。」

「そんな物語、聞いたこともないわ。」

「そりゃそうさ。まだまだ始まったばかりの物語なんだからね。」

 

「そんな物語、一体だれが考えたっていうの?」

とウェンディーはたずねました。

「ジョージさんだよ。」

「ジョージさん?」

「そう、ジョージさんという人がいて、この物語を考えているんだ。きみが来てくれないと、冒険がはじまらなくて、ジョージさんは物語を考えるのをやめてしまうんだよ!」

「ジョージさんが物語を考えるのをやめてしまうと、どうなってしまうの?」

ウェンディーが聞くと、ピーターはますます興奮して言いました。

「ぼくたち、いなくなっちゃうんだよ!」

 

「それは大変!」

と、ウェンディーも興奮ぎみになって言いました。そして、

「私があなたについていかないと決めたら、その瞬間に、私たちは消えていなくなってしまうの?」

とピーターにたずねました。

「そうかもしれない。でも、もしかしたら、きみがぼくについてこないと決めたら、ぼくたちは、最初からいなかったことになってしまうかもしれない。」

「最初から?」

「そうさ。ようするに、ぼくたちは生まれてさえこなかったことになってしまうかもしれないのさ!」

「まあ、なんてひどいこと!」

 

そのようなわけで、ウェンディーは弟たちと、ピーター・パンについていくことにした・・・のかもしれません。

 

 

グランド・トラベラーズ《3》

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《つづき》

その翌日、卒業式。

 

昨日のあの電話は、不思議な夢をみているようだったけど、夢ではなかった。

信じられないような話だけど、信じたい気持ちがある。

おじいちゃんとおばあちゃんは、未来でどんな暮らしをしていたのだろう。

いろいろな思いが浮かんで、気持ちが高ぶったまま、僕は高校の大講堂の席に座っていた。

 

卒業生の名前が順番に呼ばれ、一人ずつステージにのぼり、卒業証書がわたされる。

興奮していろいろ考えていたせいか、あっというまに僕の番が来た。

 

僕の名前が呼ばれて、立ち上がって歩き、ステージへの階段をのぼる。

卒業証書を受けとり、座席のほうをふり返ると、遠くのほう、一番うしろの出入口のそばに立って、手をふっている人たちがいる。

おじいちゃんとおばあちゃんだ。

未来から見にきてくれたんだ。

おばあちゃんの横には、小さな女の子が立っていて、おばあちゃんと手をつないでいた。


おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってから、僕は、二人が天国から見守ってくれていると思っていた。

それがまさか、未来から見守ってくれているなんて。

きっと、大学の入学式にも来てくれるだろう。

そしてその先もずっと、僕の将来を見にきてくれるにちがいない。


僕は座席にもどり、座った。

ふり向いて、うしろの出入口のほうを見ると、おじいちゃんとおばあちゃんと女の子は、もういなかった。

僕はうれしい気持ちのなか、ふとこんなことを思った。

もしかすると、さっき手をふっていたおじいちゃんとおばあちゃんは、未来からではなく、天国からやってきたんじゃないだろうか。

すると昨日の電話は、未来からの電話じゃなくて、あの世からの電話…?

 

どちらにしても、僕にとっては同じことかもしれない。

おじいちゃんとおばあちゃんは亡くなってしまったけれど、どこかから見守ってくれている。

それは未来からかもしれないし、天国からかもしれない。


《おわり》