ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

ぬいぐるみ裁判

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「それでは、私から被告人に質問します。」

検察官は、こわい顔をしてそう言いました。

検察官の視線のさきにある、被告人の席には、うさぎのぬいぐるみが座っています。

「あなたは、子どもたちにおかしを高く売りつけるために、お店のまえに立っていたのですね?」

検察官がそうきいても、ぬいぐるみは、何も答えません。

「つごうの悪いことは、言えないというわけですか?」

検察官は、きびしい口調でそう言いました。

 

すると、弁護士はこう言いました。

「被告人には、『黙秘権』があります。つまり、質問に答えなくても、不利になることはありません。」

そして弁護士は、こうつづけました。

「たしかに、被告人であるうさぎのぬいぐるみは、おかしを高く売りつけるお店のまえにいました。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことを知らなかったのです。」

「なぜ、知らなかったと言えるのですか?」

と、検察官がきくと、

「それは、被告人がぬいぐるみだからです。ぬいぐるみは、何も知りません。」

と、弁護士はこたえました。
 

裁判長は、証人に発言をもとめました。

証人は言いました。

「私は、うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないで、おかしのお店に入っていくところを見ました。」

すると検察官は言いました。

「それはどう考えても、うさぎのぬいぐるみが、子どもをだましてお店へつれて入っていた証拠でしょう。」

 

裁判長が、うさぎのぬいぐるみに、

「それは本当ですか?」

とたずねましたが、

うさぎのぬいぐるみは、何も言いません。

 

人々がすこしどよめくなか、弁護士が口をひらきました。

「うさぎのぬいぐるみが、男の子と手をつないでお店に入った。それが本当だったとしましょう。でもそれは、男の子がうさぎのぬいぐるみをかわいいと思い、仲よくなったからです。うさぎのぬいぐるみは、何も知らなかったのです。」

検察官が、みけんにしわをよせて、

「なぜ、何も知らなかったと言えるのですか?」

ときくと、弁護士は、

「ぬいぐるみは、何も知らないからです。」

と、こたえました。

 

裁判長は、せきばらいをして、言いました。

「被告人であるうさぎのぬいぐるみは、結果として、お店の悪い商売のためになることをしてしまった。しかし、うさぎのぬいぐるみは、お店の悪い商売のことは知らなかった。つまり、うさぎのぬいぐるみは、ただかわいいぬいぐるみだったということです。」

 

こうして、うさぎのぬいぐるみは、無罪となりました。

それを知った子どもたちは、とてもよろこんだそうです。