ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

トランペットの沈黙と、サクソフォンの沈黙

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ある晴れた日、テラスハウスの玄関先の小さな庭で、

若いジャズバンドが演奏の練習をしていた。

サクソフォン、トランペット、ドラムス、そのほかの楽器。

 

隣のテラスハウスのドアから、

高名なサクソフォン奏者が出てきた。

頭をうなだれて、サクソフォンを持ち、

ドアの前のみじかい階段をおりると、

若いジャズバンドとは反対のほうへ曲がり、

サクソフォンを吹きはじめた。

 

 

彼はサクソフォンを吹きながら、歩く。

 

 

やがて歩道は、小さな橋へとさしかかった。

偉大なトランぺット奏者を記念してつくられた橋。

そこまで来ると、サクソフォン奏者は、ぴたりと演奏をやめた。

まるで、その橋のうえで演奏をするのは、

おそれ多いと思ったかのように。

 

演奏をやめたサクソフォン奏者は、

立ちどまって、こういったのだった。

 

「偉大なものの前には、沈黙がある。

ただそれは、創造のための沈黙だ。」