ある晴れた日、テラスハウスの玄関先の小さな庭で、
若いジャズバンドが演奏の練習をしていた。
サクソフォン、トランペット、ドラムス、そのほかの楽器。
隣のテラスハウスのドアから、
高名なサクソフォン奏者が出てきた。
頭をうなだれて、サクソフォンを持ち、
ドアの前のみじかい階段をおりると、
若いジャズバンドとは反対のほうへ曲がり、
サクソフォンを吹きはじめた。
彼はサクソフォンを吹きながら、歩く。
やがて歩道は、小さな橋へとさしかかった。
偉大なトランぺット奏者を記念してつくられた橋。
そこまで来ると、サクソフォン奏者は、ぴたりと演奏をやめた。
まるで、その橋のうえで演奏をするのは、
おそれ多いと思ったかのように。
演奏をやめたサクソフォン奏者は、
立ちどまって、こういったのだった。
「偉大なものの前には、沈黙がある。
ただそれは、創造のための沈黙だ。」