ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

どのバスにのるの?:カヌーとフェリーのおはなし5

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大きな耳のカヌーと、大きな目のフェリーが、おはなしをしています。

 

今日はふたりでお出かけのようで、バス停でバスがくるのをまっています。

 

カヌー「今日はお天気がよくなって、よかったね。」

フェリー「雨の日に出かけるのは、すこしたいへんだからね。」

カヌー「そうだね。雨の日にバスをまつのも、すこしたいへんだよね。」

 

フェリー「そういえば、もうそろそろバスがくるころじゃないかな。」

カヌー「ぼくたちは、どのバスにのるの?」

フェリー「カヌーもへんなことを聞くなあ。」

カヌー「なんで?」

フェリー「どのバスもなにも、このバス停には、町行きのバスしかこないよ。」

 

カヌー「町行きのバスといっても、1台だけじゃなくて、何台もたくさん走ってるんでしょ?」

フェリー「それはそうだけど。」

カヌー「だとすると、たくさんの町行きのバスのうちの、どのバスにのるの?」

フェリー「どのっていわれても、こまったなあ。」

カヌー「どうして?」

フェリー「どのバスもなにも、とにかく次にくるバスにのるんだよ。」

カヌー「『次にくるバス』って、どのバスのことをいってるの?」

フェリー「こまったなあ。とくにどのバスのことでもないよ。次にくるバスなら、どのバスにのってもかまわないんだよ。」

 

カヌー「『とくにどのバスのことでもない』なんて、フェリーもふしぎなことをいうなあ。」

フェリー「いったいなにがふしぎなのさ。」

カヌー「だって、ぼくたちがのるのは、たくさんのバスのうちの、たった1台のバスでしょ?なのに、『とくにどのバスのことでもない』だなんて。」 

フェリー「うーん、たった1台ではあるけど、どのバスのことでもないんだよなあ。」

カヌー「たった1台だけなのに、どのバスのことでもないの?へんだなあ。」

フェリー「たった1台だけなのに、どのバスのことでもない…。なんだかへんな気もしてきたぞ…。あ!あのバスだよ!」

カヌー「あのバスって、どのバスのこと?」

フェリー「あっちを見てごらんよ!」

カヌー「あ!あのバスにのるんだ!」

 

いまおきたことを、バスのなかから見てみましょう。

1台のバスが走っています。

1台のバスですが、どのバスでもありません。

運転手さんは1人だけですが、どの運転手さんでもありません。

 

おや、カヌーとフェリーのまつバス停が、見えてきました。

フェリーが、バスに気づいたようです。

するとそのとき、どのバスでもない1台のバスは、あのバスへとかわったのです。

そして、どの運転手さんでもない1人の運転手さんは、あのバスの運転手さんへとかわりました。


さて、バスになかにいるわたしは、いったいどこのどの人でしょう?