ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

空をとびたいケヤキの木 《後》

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《つづき》

ケヤキの木は何かを見つけたようです。

 

「どうしたんだい?」

友だちのムクドリは、はねをはばたかせながら聞きました。

すると、ケヤキの木はこたえました。

「さっきは、きみたちのたいぐんを見て、雨雲かと思ったんだ。」

「へえ、ぼくたち、そんなふうに見えるんだ。」

「うん。けれども、これは本物の雨雲だよね?」

「雨雲だって?どこだい?」

といいながら、ムクドリは雨雲をさがしました。

すると、おどろいたことに、小さなはい色の雲が、ケヤキの木の真上からおりてきて、ケヤキの木とムクドリたちをつつみこみました。それから雲は、下のほうのじめんに、すいこまれてなくなりました。

ケヤキの木とムクドリたちは、たくさんの水てきにつつまれていました。

「まるで3日ぶんの朝つゆが、いっぺんにおりたみたいだ。」

ケヤキの木はうれしそうにいいました。

 ムクドリたちは、「いまのはなんだったんだろう」と口々にいって、おどろいています。

すると、ひろい草原のあちらこちらに、はい色の雲が1つ、2つ、白い雲が1つ、2つと、おりてきます。そして、みるみるうちに、草原は見わたすかぎり、いろんな大きさの雲で、いっぱいになりました。

こんなけしきを見たのは、ずっとこの草原にいるケヤキの木も、はじめてのことです。

 

雲はどんどんふえていき、やがてあたりは、霧につつまれたように、まっ白になりました。

「そうか、わかったぞ!」

友だちのムクドリが、大きな声でいいました。

「雲が下におりてきたんじゃなくて、ぼくたちが上にあがってるんだよ。ぼくたちはいま、空にいるんだ。ここは大きな雲のなかなんだよ。」

「これは霧じゃなくて、雲なの?」

「そう、そのとおり。みんな!この調子ではばたこう!」

 

ムクドリたちは、休みなくはばたきつづけました。

するとやがて、霧がはれて、いや、雲がはれて、ふかい青色の空が、ひろがりました。

ケヤキの木とムクドリたちも、ふかい青色のなかにいました。

ひろい草原も、はるかとおくの森までが、青色のなかにありました。

「よし、やっぱりそうだ。雲の上までやってきたよ」

と友だちのムクドリはいいました。

 

「うっとりするくらいきれいなところだね」

ケヤキの木はいいました。

「よろこんでもらえてよかったよ」

と友だちのムクドリはいいました。

「もっと上に行くと、どういうところなの?」

「ここよりも上には、ぼくたちもいったことがないなあ。」

「じゃあ、いってみない?」

「うーん、そうだね。うまくここまでこられたから、もうすこし上にいってみようか。」

 

ムクドリたちは、青い空のなかを、さらに上へ上へと、はばたきつづけました。

ふかい青色は、もっともっとふかい色になっていきます。

そのうちに、ふかい青色はだんだんと暗くなり、たくさんの星がまたたきはじめました。

 

「あんまり楽しいから、あっというまに夜になってしまった」

ケヤキの木はいいました。

「ほんと、あっというまだったね。お日さまだって、まだしずんでないや。」

友だちのムクドリがいうとおり、お日さまは星たちにまじって、まだぎらぎらと輝いていました。

「でも、もう夜だから、 ぼくたちは帰らないといけない。」

と友だちのムクドリはいいました。

 

ムクドリたちとケヤキの木は、下におりはじめました。

雲のなかを下へとおりぬけて、もとの場所にもどってくるころには、空はすっかり明るくなっていました。

ケヤキの木はこういいました。

「あっというまに夜が明けてしまったね。みなさん、長い時間ぼくをつれてとんでくれて、どうもありがとう。とてもつかれたでしょう。」

すると、友だちのムクドリはこういいました。

「それが、ふしぎなことに、ほとんどつかれていないんだ。夜じゅうとんだはずなのに、まったく眠くもないんだよ。」

ほかのムクドリたちも、みんなうなずいていました。

 

「じゃあ、こんどこうして旅をするときは、とおくのほうへ行ってみるかい?」

友だちのムクドリは、元気な調子でいいました。

「とおくのほうって、ずっと向こうにある森よりも、もっと向こうまで?」

「そう、もっともっと向こうまで。」

「そこはどういうところなの?」

「ぼくだって、行ったことがないところだよ。」

 

 

《おしまい》