《つづき》
ケヤキの木にとって、朝がこんなにまちどおしいのは、はじめてのことでした。
のぼってくる太陽が見えたとき、ひゅうっとすずしい風がふきぬけて、葉っぱをさらさらとならしました。
まだ、ムクドリはやってきません。
「なかまたちをつれてきてくれるって言ってたけど、十羽くらいかな、それとも二十羽くらいかな。」
空がいよいよ明るくなってきたころ、ケヤキの木はとおくに何かを見つけました。
「あれ、向こうの空にうかんでいるのは、雨雲かな。いや、雨雲じゃないな。おや、こっちに向かってくるぞ。」
雨雲のようなものが近づいてくると、じつはそれは雨雲ではなく、ムクドリのたいぐんでした。
「わわわ!これは十羽や二十羽どころじゃないぞ。」
すると、友だちのムクドリが一番のりで枝にとまり、言いました。
「ははは、おどろいたかい?みんなきたいって言うから、つれてきたよ。」
「すごいね。どうもありがとう!」
「みんな枝にとまって大丈夫かい?」
「もちろんだよ。枝がたりるかなあ。」
ムクドリたちは、大きなケヤキの木の何本もの枝に、ならんでとまりました。
もちろん、はばたくことができるだけのかんかくをあけて、ならびました。
「よし、みんなとまれたみたいだ」
と、ムクドリはまわりを見まわしていいました。
「よかったよかった。」
ケヤキの木はほっとしてうれしくなり、言いました。
「それじゃあ、おまちかね。さっそくはじめるとしよう。みんな!枝につかまったまま、思いっきりはばたいてくれ!」
そうムクドリが大きなこえで言うと、ムクドリのたいぐんは、いっせいにはばたきはじめました。
むすうのはねの音がまざりあい、あたりには風がまきおこりました。
友だちのムクドリは、ぜんりょくではねを動かしながら、ケヤキの木に聞きました。
「どうだい?宙にういてこないかい?」
「すごい風だけど、まだ宙にはうかないなあ。」
するとムクドリは、また大きなこえで、なかまたちによびかけました。
「みんな!もっとがんばろう!」
そのまましばらくたったあと、ムクドリがはばたきながら聞きました。
「どうだい?まだういてこないかい?」
「うーん、まだういてこないなあ。ぼくが重たすぎるのかなあ。」
「あきらめるにはまだ早いよ。みんな!どんどんはばたこう!」
ケヤキの木は、じっとしているしかありませんが、ただただとびたい一心でした。
まるで、じぶんがはばたいているような気分でした。それは、はじめて味わう気分でした。
「ぼくはもうじゅうぶん満足だよ。」
「なにを言ってるのさ。ぼくたちは、そうかんたんにはつかれないんだよ。」
「でも…」
そう言いかけたとき、ケヤキの木はなにかを見つけました。
「ん?これはいったいなんだろう?」
《つづく》