ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

空をとびたいケヤキの木 《前》

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ひろいひろい草原に、おおきなケヤキの木がありました。

ケヤキの木には、ムクドリの友だちがいました。

ムクドリはいつも、ケヤキの木の枝にとまりにやってきます。 

 

ある日、ケヤキの木はムクドリに言いました。

「ねえ、いつもふしぎに思うんだけどさ。どうしてきみは空をとぶのに、ぼくは空をとばないんだろう。」

「さあ、たしかに、ぼくのように空をとぶ生き物と、きみのように空をとばない生き物がいるね。」

そうムクドリはこたえました。

 

すると、ケヤキの木は、いつもよりねっしんなようすで、こう言いました。

「そう、そのことをずっとふしぎに思ってたんだ。そしたらさ、なんだか、空をとぶほうがいいにきまってるような気がしてきたんだよ。つまり、空をとぶのがうらやましくなってしまったってわけさ。」

「そんなにうらやましいことかなあ。」

「うらやましいよ。もしぼくがとべたら、とおくのほうのもっととおくまで行って、それから、上のほうのもっと上まで行って、それから、あとはどこへ行けるだろう。」

「うーん、とおくのほうと、上のほう、まあそんなところじゃないかな。」

「そんなふうにかんたんそうに言うけど、ぼくからすれば、すごいことなんだよ。」

ケヤキの木は、ますますねっしんになって言いました。

 

ムクドリは、しばらく目をとじて考えていましたが、まるい目をあけると、こう言いました。

「そんなにとびたいなら、ためしてみるかい?だめでもともとだと思ってさ。」

「ためしてみるって、そんなこと、できないにきまってるじゃないか。それとも、ぼくをからかってるのかい?」

「いやいや、からかってなんかいないよ。ぼくにちょっと考えがあるんだ。」

 「へえ、どんな考えだい?」

ケヤキの木は、わくわくしたようすでききました。

 

そのわくわくする気持ちがムクドリにもうつったようで、ムクドリはうれしそうに話をはじめました。

「ぼくがこうしてきみの枝につかまったまま、とぼうとしたとするよね。ほら!」

ムクドリは、枝にしっかりつかまったまま、けんめいにはばたきました。

ケヤキの木はおどろいて言いました。

「ど、どうしたんだい?」

ムクドリは、はばたくのをやめて、言いました。

「はあはあ、びくともしないだろう?」

「うん、なんにもおこらない。」

「でも、話はここからさ。ぼくはいつも、きみのところに一人でくるけど、じつはなかまがたくさんいるんだ。」

「へえ。」

「そのなかまたちをつれてきて、みんなできみの枝につかまったまま、いっせいにはばたく。」

「ふむふむ…そうか!そうすれば、ぼくもきみたちといっしょに、空を旅することができるんだね。」

「わからない。わからないけど、ためしてみてもいいと思うんだ。」

「そうだね!もう、いますぐにでもやってみたいよ。」

「今日はもう夕方だから、ぼくはそろそろ帰らなくちゃいけない。今夜、なかまたちに話をするよ。明日の朝、やってみよう。」

「どうもありがとう!明日がまちきれないよ。」

 

空をとびたいケヤキの木のゆめは、かなうでしょうか。

 

 

《つづく》