ひろいひろい草原に、おおきなケヤキの木がありました。
「ねえ、いつもふしぎに思うんだけどさ。どうしてきみは空をとぶのに、ぼくは空をとばないんだろう。」
「さあ、たしかに、ぼくのように空をとぶ生き物と、きみのように空をとばない生き物がいるね。」
そうムクドリはこたえました。
すると、ケヤキの木は、いつもよりねっしんなようすで、こう言いました。
「そう、そのことをずっとふしぎに思ってたんだ。そしたらさ、なんだか、空をとぶほうがいいにきまってるような気がしてきたんだよ。つまり、空をとぶのがうらやましくなってしまったってわけさ。」
「そんなにうらやましいことかなあ。」
「うらやましいよ。もしぼくがとべたら、とおくのほうのもっととおくまで行って、それから、上のほうのもっと上まで行って、それから、あとはどこへ行けるだろう。」
「うーん、とおくのほうと、上のほう、まあそんなところじゃないかな。」
「そんなふうにかんたんそうに言うけど、ぼくからすれば、すごいことなんだよ。」
ケヤキの木は、ますますねっしんになって言いました。
ムクドリは、しばらく目をとじて考えていましたが、まるい目をあけると、こう言いました。
「そんなにとびたいなら、ためしてみるかい?だめでもともとだと思ってさ。」
「ためしてみるって、そんなこと、できないにきまってるじゃないか。それとも、ぼくをからかってるのかい?」
「いやいや、からかってなんかいないよ。ぼくにちょっと考えがあるんだ。」
「へえ、どんな考えだい?」
ケヤキの木は、わくわくしたようすでききました。
そのわくわくする気持ちがムクドリにもうつったようで、ムクドリはうれしそうに話をはじめました。
「ぼくがこうしてきみの枝につかまったまま、とぼうとしたとするよね。ほら!」
ムクドリは、枝にしっかりつかまったまま、けんめいにはばたきました。
ケヤキの木はおどろいて言いました。
「ど、どうしたんだい?」
ムクドリは、はばたくのをやめて、言いました。
「はあはあ、びくともしないだろう?」
「うん、なんにもおこらない。」
「でも、話はここからさ。ぼくはいつも、きみのところに一人でくるけど、じつはなかまがたくさんいるんだ。」
「へえ。」
「そのなかまたちをつれてきて、みんなできみの枝につかまったまま、いっせいにはばたく。」
「ふむふむ…そうか!そうすれば、ぼくもきみたちといっしょに、空を旅することができるんだね。」
「わからない。わからないけど、ためしてみてもいいと思うんだ。」
「そうだね!もう、いますぐにでもやってみたいよ。」
「今日はもう夕方だから、ぼくはそろそろ帰らなくちゃいけない。今夜、なかまたちに話をするよ。明日の朝、やってみよう。」
「どうもありがとう!明日がまちきれないよ。」
空をとびたいケヤキの木のゆめは、かなうでしょうか。
《つづく》