ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

「これ」は「これ」 《後》

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《つづき》 

コンピューターの画面に出ている「これ」は、「『これ』じしんをさす『これ』」だ。

「これ」じしんをさす「これ」…

それを指を使ってできないだろうか。

こうなったら、どうしても考えたくなってきたぞ。

 

さっきみたいに、指を二本使うと、「『これ』じしんをさす『これ』」にはならない。

どうにかして、人さし指を一本だけ使って、「『これ』じしんをさす『これ』」をできないだろうか。

 

ぼくは右手の人さし指を、まげたりのばしたりしながら、考えた。

「人さし指じしんをさす人さし指」ができたら、よさそうなものだけど…

うーん、人さし指で、同じ人さし指をさすことは、どうがんばってもできないなあ。

 

そうだ!こういう考えかたはどうだろう。

テーブルを人さし指でさすとき、テーブルぜんたいに人さし指を向けることはできない。

たとえば、テーブルのうえの真ん中あたりに指を向けたとしたら、テーブルの足なんかには、指は向いていない。

それなのに、テーブルぜんたいをさすつもりで人さし指を使えば、テーブルぜんたいのことを、さすことができる。
 

もしそれができるなら、こうするのはどうだろう。

 

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人さし指が向いているのは、うでの力こぶのところだ。

手のひらや指には、人さし指は向いていない。

だけど、テーブルのときのように、うでから人さし指のさきまで、ぜんたいをさすつもりで、させばいい。

そうすれば、人さし指は、力こぶのところだけでなく、人さし指じしんもふくめて、さしていることになる。

よし。このやりかたなら、「人さし指じしんをさす人さし指」ができて、「『これ』じしんをさす『これ』」と同じになりそうだ。

 

あれあれ?ちょっと待てよ。

「うでから人さし指の先まで、ぜんたいをさすつもりで、させばいい」って、それだけで大丈夫だろうか。

それだけだと、さされているところが「人さし指の先まで」で、ぷっつり切れてしまう。

これじゃあ、さされているその「人さし指」が、まるで何もさしていないみたいじゃないか。

 

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▲さされてているのが「ここまで」(人さし指の先まで)で切れている

 

一本の人さし指を使って、その人さし指じしんをさすとしたら、「さされている人さし指」は、「さしている人さし指」でもあるはずだ。

だとすると、「うでから人さし指の先まで」をさすつもりでさすだけでは、足りない。

「さされている人さし指」が「うでから人さし指の先まで」をさしているところまでを、ふくめるつもりでさしてやらないといけない。

つまり、人さし指を力こぶに向けながら、「うでから人さし指の先まで」だけでなく、「さされている人さし指がうでから人さし指の先までをさしているところまで」をさすつもりで、ささないといけない。

 

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▲黄色いところとオレンジ色のところがつけくわわった


あれあれあれ?

また人さし指の先までで、さされているところがぷっつり切れてしまったぞ。

 

「さされている人さし指がうでから人さし指の先までをさしているところまで」をふくめてやったら、「さされている人さし指にさされている人さし指」が、まるで何もさしていないみたいになってしまった!

「さされている人さし指にさされている人さし指」だって、ただの「さされている人さし指」じゃなくて、「さしている指」でもあるはずだ。

そうすると、どういうつもりになって、人さし指を力こぶに向ければいいんだろう。

 

うーん、ややこしいけど、こうかな。

人さし指を力こぶに向けながら、「うでから人さし指の先まで」だけでなく、「さされている人さし指がうでから人さし指の先までをさしているところまで」だけでなく、「さされている人さし指にさされている人さし指がうでから人さし指の先までをさしているところまで」…そこまでぜんぶをさすつもりで…えーっと…

あああ!人さし指の先のところまででぷっつり切れないようにしようとしたら、どこまでいってもきりがない!

 

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▲どういうつもり??? 

 

はあ…こんなとほうもないことを、コンピューターは「これ」という言葉ひとつだけで、やっていたのか。

まいった。ぼくの負けだ。このコンピューター、すごいな。

それから、「これ」っていう言葉、すごい。

言葉だと、どうしてそんなことができちゃうんだろう。

 

そのとき、お母さんが外から帰ってきた。

「ただいま。あ、コンピューター、こわれてるでしょ。いま電気屋さんに行って、相談してたところよ。」

「こ、こわれてるだけなのこれ!?」

  

 《おしまい!》