ある日、1匹のみつばちが、私の鼻の穴にごそごそと入ってきた。
みつばちは、鼻のなかの空洞まで入ってきて、そこでしばらくじっと休んでいた。
こわい鳥も入ってこられないし、大きなクモも入ってこられないし、スズメバチも入ってこられない。
きっと、安心してひと休みするのに、うってつけの場所だったのだろう。
みつばちはそのうち、もぞもぞと鼻の穴から出ていき、どこかへ飛んでいった。
次の日、また同じみつばちがやってきた。
今度は、ほかに3匹のなかまをつれてきていた。
あわせて4匹のみつばちは、私の両方の鼻の穴から、順番にごそごそと入ってきた。
鼻のなかの空洞を歩きまわって、何やら話し合いでもしているようだった。
4匹は鼻の穴から出てくると、どこかへとんでいった。
その次の日には8匹のみつばち、そのまた次の日にはもっとたくさんのみつばち、というふうに、私の鼻の穴に入ってくるみつばちの数は、日ごとにふえていった。
そんなある日、どこからともなく、あまいにおいがしてきた。
夢をみるような、あまいにおい。
ところが、あたりを見わたしても、あまいものはどこにもない。
それでも、あまいにおいは、私の鼻のなかを満たしているようだった。
どうやら、みつばつたちは、私の鼻のなかに巣を作っているらしい。
それで、どこかから花のみつをはこんできては、私の鼻のなかの巣にためこんでいるようなのだ。
みつばちたちは、一体どこから花のみつをはこんでくるのだろう。
私は、鼻の穴から出たみつばちたちが、どこへ飛んでいくのか、よく見てみることにした。
すると、みつばちたちは、上のほうに飛んでいっては、上のほうから帰ってくる。
いよいよ春がおとずれて、私の頭にも、花々が咲きはじめたようだ。