ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

魔女と奇跡のテーブル 《後》

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《つづき》

笑っていたおばあさんは、まじめな顔になって、僕にこう言った。

「わたしは、『このテーブルのうえでは、めったにないことが次々と起こる』と言った。これから先も、わたしの言ったとおりになるじゃろう。しかしそれはな、わたしに不思議な力があるからではない。『偶然に』わたしの言ったとおりになるのじゃよ」

僕はなにがどうなっているのか、わからなくなってしまった。

「ううーん、偶然におばあさんの言ったとおりになるとしても、どうして、これから先もそうなるっていうことまで、おばあさんにはわかっているんだろう…」

 

おばあさんは、まだまじめな顔をして、こう言った。

「わかっているわけではないぞ。わかっているわけではないのに、言ったとおりになってしまう。だからこそ、このテーブルは『奇跡のテーブル』なのじゃ」

「うーん、どういうことですか?」

「わたしらは、このテーブルごしにおしゃべりをしているじゃろ?わたしらのおしゃべりも、このテーブルのうえで起きていることになっているのじゃよ」

「そうか、そのおしゃべりの中で、おばあさんが『このテーブルのうえでは、めったにないことが次々と起こる』と言うと、おばあさんの言ったとおりになる…」

「そういうことじゃ。そんなことが言ったとおりになるなんて、めったにないことじゃろう?」

 

「…ということは、おばあさんと僕がこうやっておしゃべりしているのも、めったにないことなのか…」

おばあさんは、やっとまた笑顔になった。

「そうじゃ。男の子が遊園地に来て、友達といっしょに来たのに1人だけジェットコースターにのらずに、『魔女の家』なんかに入って、おばあさんに『奇跡のテーブル』の話をされるなんて、そうめったにあることではないじゃろう?」

僕はまたまたおどろいてしまった。

「な、なんで、僕が友達といっしょに来たことや、ジェットコースターにのらなかったことまで、わかったんですか?」

「それも、わかったわけではない。しかし、言ってみたらそのとおりだったようじゃな。これまた、めったにない偶然じゃ」

 

「ということは、僕が言うことも、このテーブルごしなら、めったに起こらないことになりますか?」

「ためしてみるかい?」

「はい。えっと…」

「ふふふ」

「うーんと…そうだ!」

「言ってごらん」

「僕は今日から『奇跡のノート』を書きます」

「奇跡のノート?」

「はい、めったに起こらないようなことでも、書けばそのとおりのことが起こるノートです」

「ほぉっほほ」

 

こんなことがあって、僕は今日からこのノートを書きはじめた。

その名も「奇跡のノート」。

またいつか、あのおばあさんのことを書く日が来るにちがいない。

 

《おしまい!》