ふしぎな顔:カヌーとフェリーのおはなし3
大きな耳のカヌーと、大きな目のフェリーが、おはなしをしています。
フェリー「ビーバーっていう動物、知ってる?」
カヌー「うん、知ってるよ。知ってるけど…」
フェリー「知ってるけど?」
カヌー「知ってるけど、ビーバーの顔を思い出そうとすると、ラッコの顔が思い浮かんでしまうなあ。」
フェリー「ははは。たしかにちょっと似てるけど、だめだよ、ちゃんとビーバーの顔を思い出してよ。」
カヌー「ううーん…と…だめだ…。どうしてもラッコの顔が出てきちゃうよ。」
フェリー「ちゃんとビーバーの顔を思い出そうとしてるかい?」
カヌー「してるよ。してるけど、ラッコの顔が出てくるんだ。」
フェリー「そもそも、ビーバーの顔、見たことある?」
カヌー「自信がなくなってきたなあ。ビーバーの姿は見たことがあるけど、顔を見たことがないから、ラッコの顔が出てきちゃうのかな。」
フェリー「もしそうだとしたら、見たことがないものを思い出そうとすることなんて、できないよね。」
カヌー「ビーバーの顔をがんばって思い出そうとしているつもりだったけど、ほんとうは思い出そうとすることなんて、できてなかったってこと?」
フェリー「なんだか変だけど、そういうことになりそうだね。」
カヌー「ところで、ビーバーの顔って、どういう顔?」
フェリー「そうだなあ。ラッコの顔の、上の前歯2本を長くして、ひげを短くした感じかな。」
カヌー「うーんと…あ!これがビーバーの顔か!思い出したよ。やっぱり前に見たことがあったよ。」
フェリー「見たことがあったということは、やっぱりさっきはビーバーの顔を思い出そうとできてたんだね。」
カヌー「そうだね。でも…」
フェリー「でも?」
カヌー「いま思い浮かべてるこの顔は、ラッコの顔を思い浮かべて、その顔に長い前歯をつけて、ひげを短くした顔だよね。てことは、これはビーバーの顔じゃなくて、前歯が長くてひげが短いラッコの顔?」
フェリー「さっきカヌーはビーバーの顔を思い出そうとしてたんだよね。最初はラッコの顔が出てきてうまくいかなかったけど、いまはうまくいってるんだから、それはビーバーの顔ってことでいいんじゃないの?」
カヌー「でも、うまくいったとは言っても、うまくいかなくて出てきたラッコの顔の、前歯を長くしてひげを短くしただけだよ?やっぱりこれはラッコの顔じゃない?」
フェリー「ふーむ、なんだろうね、その顔は。」
カヌー「なんだろう、この顔は。」